イッセー尾形さんの最終公演に思うこと。

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大河を渡るには覚悟がいる

8月26日日曜日。ホテルを出て、駒場の日本民藝館に立ち寄ったあと15:00開演の「イッセー尾形のこれからの生活2012 in 真夏のクエスト」を観るために原宿へ向かった。いや、向かうはずだった。駒場の辺りには昼食をとるような場所があまりないことは、その近辺に詳しい方に事前にうかがっていたので、早めに原宿方面へ向かい昼食をとるはずだった。
が、原宿表参道、日曜日、お昼、夏休み終盤、24時間テレビ…、どうも足が進まない。
>日本民藝館から代々木上原駅まで歩くことにした。灼熱の猛暑の中とはいえ、落ち着いた文教地区の街並は静かで、個性豊かな住宅を眺めて歩くだけでも充実した時間だった。代々木上原駅到着。飲食店は見当たらない。井の頭通りを西へ。登り坂、先が見通せない。東京というところはやたら坂が多い。馴染みの看板を発見。ローソン。その先まで行く気力も体力もなかったので、そこで昼食を調達し日陰の植え込みの端に座って昼食。静かだ、足元に散らばる吸い殻を除けば概ね快適な環境。(途中、東京ジャーミィという施設が気になったが入る勇気がなかった。トルコ関連のモスクのようだが。)
明治神宮前駅到着。そこにあったのは予想どおりの光景。祭りだ。この大河の流れのような人々は、いったい何処へ向かって歩いているのだ。早々に代々木公園内へ退避。しばらく時間を潰したあと、再び呼吸を整えて流れの中へ息を止めて飛び込む。
>止めた息がこれ以上続かないので、開演1時間前、開場時間14:00にクエストへ。
>開演1時間前にも関わらずロビーは人でいっぱい。さらに有名芸能人から送られた花飾りが、決して広くはないその場所にひしめいている。最終公演ならではのことか、それとも通常の出来事なのか。名古屋公演では見られない光景だ。
イッセーさんの公演での楽しみのひとつに、観客鑑賞がある。お客が面白いのだ。名古屋公演でもそれなりに個性的な人が多く、その人となりを想像し、ストーリーを仕立てていくと面白い。今回はさすが本山クエスト公演、その客筋の面白さの厚みが違う。
私の右前5列ほど、通路を挟んだころに男2人、女1人の三人連れ。女性を挟んで両側に男性。左側の男性と中央の女性はカップルらしい。男性はサイド刈り上げ、後ろ長め、肌は黒く、ピアスにリング、頭の上にはスポーツグラス、7分丈のパンツにデッキシューズ、もちろん靴下はなし。胸元を必要以上に開けているけど悲しいかな肩幅が狭い上に、矢印なで肩。女性の背もたれに右腕を回して、しきりに右端の男性に話しかけている。首の上下動と左右の回転及び身振り手振りが激しい。女性は色白小顔でボリュームのあるポニーテール、耳たぶが可哀想になるくらい大きさのインカ帝国跡から出土したようなピアスが揺れている。こちらも頭の上にサングラス。このカップルを見ていると、どこからかケニーGのBGMが流れ背景にラッセンの絵が浮かんでくる。明らかにこのお二人はイッセーさんの公演の常連ではない。右端の男性が連れてきたのだろう。この人は場に馴染んでいる。代理店関係者とスポンサーの男性とそのお連れの女性といったところか…。(すべて想像にて失礼)
この三人だけでも物語ができそうだ。その他にもストールを巻いたオシャレなスキンヘッドの男性(?)とか、2座席を占拠しそうな巨漢男性とか、枚挙に暇がない。
一人芝居の演目の間に、彼は舞台袖で着替えをする。その様子を客に見せることも舞台の一部になってる。通常の公演では、だだ黙々と着替えをし、終了した演目の化粧を落とし、次の演目の化粧を施し、髪を整える。だが今回の一連の公演では、着替えが整った後にそのひとつ前、つまり出来上がった扮装のひとつ前の演目の解説を自ら舞台袖で行った。ひとつひとつを愛おしむように…。それらは地方公演で全国を回ったおりに出会った人々やそのシチュエーションについてだった。彼はそれを元ネタにして自分の演目に仕立てていくのだ。この試みは新鮮だった。観客はもちろん、ご本人にもそうだったようだ。最終公演という緊張がほぐれてよく眠れるようになったと語っておられた。
万来の拍手鳴り止まぬ中、公演は終了した。それはいつものように終了した。解説を付加する以外、決して特別な趣向などなく…。そこがまた彼らしいところなのかもしれない。最後にイッセーさんに一言、「お疲れさまでした。またお会いできる日を楽しみにしています。それと、イッセーさんの演目に登場する人たちに負けず劣らず、公演の観客は今回もネタ元の素養タップリでした。」